パワハラとうつ病自殺

第1回 ~パワハラとうつ病自殺~(甲府地判平27.1.13労判1129号69頁)

事案の概要

Y1農協のA支店に勤務し、自殺したKの両親であるX1・X2が、Kの自殺は、Kの上司であるA支店長Y2による、ノルマ不達成に対する叱責やY2を待たせたことを理由とする暴行が原因であるとして、Y2には、民法709条に基づき、Y1農協には、同715条に基づき、損害賠償を請求した事案です。

パワハラ

判決

一部認容 一部棄却(控訴後和解により解決)

法律知識

職場の上司や同僚からパワーハラスメントを受けた場合、当該パワハラ行為を行った個人に対して損害賠償を請求することはもちろん、会社に対しても職場環境配慮義務違反を理由として損害賠償を請求することができます。

裁判で争点となったこと

  1. Y2の責任原因の成否
    • Y2はKが自殺することについて予見できたか否か(Y2の過失の有無)
    • Y2の各行為が違法であるか
    • Y2の行為とKの死亡との間には因果関係があるか否か
  2. 過失相殺又は訴因減額の可否
    • Kの事務処理を効率的に行うのが不得意であるという性格は損害の減額事由として認められるか否か
    • Kに過失があったか否か

争点に対する裁判所の判断

1 争点(1)について

(1)過失について

ア 叱責について
職員に一定のノルマを課すことやノルマの不達成を叱責すること自体は、一定の範囲で許容されるが、Kにとって、(共済の獲得等の)ノルマの達成は大きな心理的負担になっており(*)、このような心理的負担を感じているKに対し、ノルマの不達成を叱責すること自体、大きな心理的負荷をかけたと判断しました。

Y1農協ではノルマを達成できないと、他の職員が穴埋めをしなければならないほか、支店の目標の達成を左右し、査定にも大きく響くなど、他の職員にも迷惑がかかるため、ノルマを達成できない場合には自ら共済に加入することが多かった。Kも自ら共済に加入し、毎月5万円を超える保険料を負担する状態にありましたが、2か月で4%程度しかノルマを達成できていませんでした。

イ 暴行について
顔を3回殴り、腹を10回蹴るという暴力行為が、直接指導を受けることもある上司であり、かつ、A支店のトップであるY2からされたことに加えて、事後的にも、Y1農協内での対応がなかったことからすると、これがKに与えた心理的負荷は極めて大きく、Kが正常な状態で、Y1農協A支店での勤務を継続することは客観的にも困難な状況にあったと判断しました。

ウ ファイルでの殴打、給料返上の発言について
他の職員もいる前での叱責の際のファイルでの殴打や「給料を返してもらわなければならない。」との発言によるKへの心理的影響は大きかったといわざるを得ず、Kがこれ以上、Y1農協で勤務することに困難を感じたとしても相当といえると判断しました。

エ 結論
Y2は、自ら上記の行為を行っており、上記のKの精神状態を認識し得た上、そのような中でKに対し、笑いながら自殺するなよという趣旨の発言などをしていることからすると、Kの自殺につき予見可能性が認められ、過失があったと判断しました。

(2)違法性について

Y2の各行為は、通常の業務上の指導の範囲を逸脱したものといえるから、違法性が認められると判断しました。

(3)因果関係について

Kの無気力な発言(Y2から「今年もがんばろう。」言われたのに、「自分にはできません。」と言った。)、自殺の態様(自宅を出た後、出勤せず、自動車を運転し各地を経てから、山中において木にゴムホースを掛けて首を吊った)などに照らせば、Kは、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行を受け、それに対するY1農協内部で適切な対応がされなかったことや、その後もY2による叱責等が続いたことなどにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症した。

Kは、急性ストレス反応により自殺するに至ったと認められ、Y2の行為とKの死亡との間には因果関係があると判断しました。

2 争点(2)について

Kのまじめではあるが、事務処理を効率的に行うのが不得意であるという性格等は、農業協同組合に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲外とはいえず、心因的要因として斟酌することはできないと判断しました。

しかし、①休息の時間を適切に確保して自己の健康の維持に配慮すべき義務を怠った、②自己の悩みを同居する両親に相談することもなかった、③消防団への参加を強制されることも悩みの一つとしてあった等の点は、損害の発生、拡大に寄与しているというべきであるから、被告の賠償すべき額を決定するに当たり、民法722条2項の規定を適用ないし類推適用し、これらを斟酌し、損害額を3割減じる判断を示しました。

まとめ

上司による行き過ぎた叱責や暴行・暴言により精神障害を発症した場合、会社や上司に対して損害賠償請求をすることができます。
もっとも、パワハラ裁判では、パワハラ行為自体の立証がポイントとなることが多く、パワハラ行為に関する立証手段の確保については注意を要します。

 

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